歯が動きやすく痛みの少ない、セルフライゲーションブラケットについて
「なるべく痛みのない矯正」という言葉、矯正治療を希望され、色んな歯医者さんをお調べになっている方はよく聞く言葉かもしれませんが、何をもって判断すれば良いか分からないという事はありませんか?
今回は特に表の矯正装置、マルチブラケット装置についてのお話です。
ちなみに歯の表面に直接ついている装置部分をブラケットという言い方をします。
なるべく痛みのない矯正を実現するためには、歯を動かす際に加える力を弱くすることが考えられます。
ワイヤーの矯正治療に限定して言うと、その方法として、
①痛みの少ない装置を使用する
②痛みの少ないワイヤーを使用する
以上の2点になると思います。(歯を引っ張るゴムを治療上使用するのですが、その際はゴムの力を弱くするなども)
その中で、①の痛みの少ない装置というのがセルフライゲーションブラケットになります。
ただ、どの装置にも良し悪しがあるので、使い分けが必要になってきます。もちろんそれを判断するのは矯正歯科医の仕事なのですが、治療される患者さんも知った上で治療された方が、実感が湧きやすいと思うので是非お読みになってください。
目次
- 表側の矯正装置の種類
- セルフライゲーションブラケットとは?
- セルフライゲーションブラケットのメリットとは?(従来のブラケットと比較して)
- セルフライゲーションブラケットの欠点とは?(従来のブラケットと比較して)
- まとめ
1.表側の矯正装置の種類
表側の装置大きく分けると、
結紮線(リガチャー)という細いワイヤーを用いてブラケット装置にワイヤーを保持する従来のタイプと、
ブラケット装置自体に蓋がついていてその蓋を閉めることによってワイヤーを保持するセルフライゲーションブラケットに分かれます。
(その他、特殊な蓋を閉めるタイプのT21という装置もありますが割愛させていただきます)
それぞれの装置にクリアなタイプと金属色のタイプがあります。
2.セルフライゲーションブラケットとは?
前述させて頂いたように、ブラケット装置自体に蓋が付いていて、その蓋の開閉によりワイヤーを保持するシステムになっています。
元々、結紮線でワイヤーを保持する処置は処置時間が長くなるので、その効率化として蓋で開閉するセルフライゲーションが誕生したのですが、実際治療が始まると今までになかった治療上の利点が多く出てきたため、現在多くの矯正歯科で使用されている現状です。
セルフライゲーションブラケットといえばで、デーモンブラケットというセルフライゲーションブラケット装置が有名です。こちらの装置はセルフライゲーションブラケット用に歯が動くように歯の前後左右の傾きが装置内にインプットされている装置になります。(その他の装置は、結紮線の場合の歯の傾きなどの情報がインプットされており、ワイヤーの保持だけ蓋になっているというパターンが多い)
ただ、動かし方、使う装置は個人の先生で考え方が全く異なるので、セルフライゲーションだからデーモンブラケットでないとだめだという事は全くないです。ここで知って欲しかった事は、セルフライゲーション用のカスタマイズが存在するくらい、従来の結紮線の時とは歯の動き方が異なるということです。なので、その違いを理解して矯正歯科の先生は歯を動かさないと治療が遠回りしてしまうこともある、扱いが特殊な装置ではあります。
3.セルフライゲーションブラケットのメリットとは?(従来のブラケットと比較して)
セルフライゲーションブラケットは、歯が動く時の装置とワイヤーの摩擦が少ないのでこれにより様々なメリットがあります。
(英語で摩擦の事を:friction(フリクション)というので、摩擦が少ない装置のことをローフリクションブラケットとも言います)
メリット
- 摩擦が少ないので、弱い力で歯が動く
- 弱い力で動くので、痛みが少ない
- 弱い力で動くので、矯正治療で起こりうる歯根吸収や歯肉退縮が起こりにくい
- 摩擦が少ないので、歯が早く動きやすい(歯の周囲の骨改造があるのでどれだけ早くとも1カ月に1mmほどが限度のことが多いです)
- 結紮線を使用しないので、矯正治療でよくある細いワイヤーが出てきてチクチク痛いという事が少ない
- 結紮線を使用しないので、目立ちにくくなる(金属色の結紮線を用いた場合)
- セルフライゲーションブラケットの欠点とは?(従来のブラケットと比較して)
物事は表裏一体。従来の装置より劣っている部分もあります。
- ワイヤーの保持力が劣るので、歯の捻じれを治すのに時間がかかる
- ワイヤーの保持力が劣るので、歯の傾きを治すのに時間がかかる
- 蓋が壊れる事がある
- 装置自体が少し分厚い(下の前歯がつけられない時がある)
- 摩擦が少ないので、ワイヤーが移動しやすく、奥からワイヤーが出やすい
- 装置自体が高額なので、治療費も高額になる場合がある
などがあげられます。
ちなみに対策としては
①、②に関しては、セルフライゲーションブラケットでも結紮することは可能なので、状況に応じて結紮線を部分的に使用することもあります。
③に関しては頻繁に壊れるわけではないのですが、壊れたら交換します。
④に関しては、なるべく上顎前歯を動かしてつけられるようにしてから下顎をつける、もしくは、噛む面に材料を足して下顎につけることもあります。
⑤に関しては極力奥から出ないように、または出ても痛くならないように注意して治療しております。
⑥矯正治療のオプションで用いる歯科医院もありますが、当院では追加費用なくこの装置にしております
5,まとめ
セルフライゲーションにより、弱い力での矯正治療が可能になり、それによるメリットが沢山あります。今回はそのメリット・デメリットについて一部分紹介させて頂きました。
今回のコラムで、1つ気を付けて頂きたいことは、早く歯が動くから他の人より治療が早く終わるという事ではないという事です。
矯正治療の治療期間はその方の歯並びの移動しなければいけない移動量の多さや、歯の動かす方向(奥歯を動かす治療が必要な方は歯が動きにくく治療期間が長くなりやすい)、個人の持っている骨格や歯の大きさ、本数などに依存するため、ある個人と個人の治療期間を比較することはあまり意味がありません。
矯正治療を登山と例えると、治療期間が長くなりそうな歯の移動距離が長いかみ合わせの患者さんを富士山(標高3776m)の登頂、比較的歯の移動距離が短いかみ合わせの患者さんを800~900mほどの山の登頂とし、登頂にかかった時間を治療期間とします。いくら富士山を早く走って登っても、普通のペースで低い山を登頂した方が登頂に要した時間は短くなると思います。つまり、治療期間に関しては個人のかみ合わせの度合いに大きく依存するという事です。セルフライゲーションブラケットは、早く走ることが出来るようになる装置というイメージを持っていただきたいです。
そして、弱い力で動くことによる歯へのダメージの少なさを考えると、セルフライゲーションの装置は非常に良い装置だと感じています。
従来の結紮線での方法と、セルフライゲーションブラケットとの違いを知って頂き、ご自身にあった装置を選択できる手助けになれば幸いです。