混合歯列期の治療
小学1,2年生から中学生までのお子様に相当する時期です。
治療に関してはそれぞれの骨格、歯の特徴で異なりますが、症状別に比較的よく行う治療をご紹介します。
この時期に治療開始される方の装置は、取り外し式のものと固定式(ずっと装置がお口に入っているもの)があり、動かし方や年齢を考慮してどの時期にどちらの装置を使用するか決めていきます。
費用
表示価格はすべて税込みです。
初期費用:300,000円 来院ごとの処置料2000円(定期観察時:1000円)
その他、追加費用なし
1.この時期の治療の目的、この時期に矯正治療を行うメリットは?
目的としては
- 上顎と下顎の骨格的なバランスを整える
- 上下顎の咬み合わせのバランスを整えてかみやすい歯並びにする
- 顎の成長に悪影響を与えるものを排除する
- 大人の歯が正しい位置に生えてくるように誘導する
などが挙げられます。
大きなメリットとしては、成長期であるため、骨格の成長を利用できるということです。
例えば、大人の矯正治療では手術という選択肢しかなくなる骨格的不正が大きい方の矯正治療も、成長期であれば手術を回避する、または手術を行うにしても、手術の負担を減らすことが出来ます。
歯並びのガタガタが気になる(叢生という症状)に関しても骨格の成長を利用する方が有利です。
また、歯が生えにくくなっている原因の除去や、顎の成長に悪い影響を与えている因子の除去を行い、正しい歯と顎の成長を促すことによって、将来的に歯の移動する量が大きい、大がかりな矯正治療になってしまうのを回避できるのも成長期だからこそ出来る矯正治療です。
成長期に治療を行う方が歯の動きが良く、動き終わった後も元に戻りにくいというメリットもあります。
さらに、当院では染め出しによる歯磨きチェックも定期的に行うため、歯磨きをしっかりする習慣が自然とつくお子様も多いです。
装置は取り外し式装置と固定式装置(自分では取り外せない装置)があります。
性格や骨格的成長が個人個人で異なる分、適している装置も異なります。その子に最も合う装置を一緒に考えていけたらと思います。
2.適応時期は?
→6歳臼歯、前歯が生え変わったあたりから12歳臼歯が生え終わり、骨格的成長が緩やかになってきた時まで
子どもの矯正治療は早ければ早い方が良いとは一概には言えないです。治療すべき症状や骨格の特徴によっても効率的に効果の出る時期が異なるからです。
以下、骨格の成長時期と治療の介入時期の目安の表になります。ただ、自己判断では難しいところも多いので悩まれている方は一度ご相談に来ていただければと思います。
症状別・矯正治療を始める時期の目安
下の前歯が上の前歯よりでている下顎前突の方は、前歯が上と下で前後が逆のままですと、上顎の成長阻害を起こす可能性があるので少し早めに治療を行うことがあります。叢生、上顎前突(歯並びのガタガタや出っ歯さんを主訴とされている方)は前歯が大人の歯が生え変わってから行うことが多いです。下顎の成長は小学生高学年ぐらいなので、上顎前突の方は積極的な治療が小学生の後半になるように治療することが多いです。
3.症状別原因とよく行う治療
Ⅰ. 上顎前突(上の前歯が突出している状態)
a.原因として考えうることは?
- 骨格が原因。
頭の位置に対して上顎が突出している、もしくは下顎が後退している。
(骨格性上顎前突) - 歯が原因で上の前歯が前方に出ている(歯性上顎前突)
b.放置しておくと?
- 口が閉じにくくなり口腔乾燥症による虫歯や歯肉炎、歯周病のリスクが上がる。
- 前歯でものを、かみ切れない。
- 前歯に何かしらの外的な力(衝突や転倒)が加わった際、前歯を負傷するリスクが上がります。
c.よく行う治療と装置
骨格が原因である場合、骨格の成長を利用し、原因である上顎、もしくは下顎にアプローチします。(上顎が原因か下顎が原因かは精密検査によって判断します。)
歯が原因の場合、上顎の歯列ごと後方に移動させる、または歯列を広げることにより上の前歯を後方に下げる、また前歯の傾く原因(指しゃぶりなど)があれば取り除く治療を行います。
よく用いる装置としては
機能的矯正装置(顎のバランスを整える装置)、拡大装置、ブラケット装置、ヘッドギアなど
治療開始時期は混合歯列期の治療の目次より適応時期は?をご参照にしてください。
Ⅱ. 下顎前突(下の前歯が上の前歯より前方に位置し、かんでいる状態)
a.原因として考えうることは?
- 骨格が原因。
頭の位置に対して下顎が突出している、もしくは上顎が後退している。 (骨格性下顎前突) - 歯が原因で上下前歯の前後的位置が逆になっている(歯性下顎前突)
- 前歯が上と下で当たってしまい、顎を前に出さないと咬めないため顎を前に出している(機能性下顎前突)
b.放置しておくと?
- 正常な骨格の成長が阻害されることがある(上顎の成長抑制)
- 前歯で咬みきりにくい
- 笑顔の時下の前歯が見えるといった審美的要因が残る
- 歯の負担が増える場所が発生し、その歯の生存率が下がる
c.よく行う治療と装置
骨格が原因である場合、成長を利用し、原因である上顎、もしくは下顎にアプローチします。(上顎が原因か下顎が原因かは精密検査によって判断します。)
歯が原因の場合、上顎の歯列ごと後方に移動させる、または歯列を広げることにより上の前歯を後方に下げる、また前歯の傾く原因(指しゃぶりなど)があれば取り除く治療を行います。
よく用いる装置としては
顎外矯正装置(顎のバランスを整える矯正装置)、拡大装置、床型矯正装置、ブラケット装置、トレーナー型装置など
Ⅲ. 叢生(歯並びがデコボコやガタガタしている)
a.原因として考えうることは?
顎の大きさに比べて、歯の1つ1つの大きさの合計が大きいため、綺麗に並びきっていない状態です。
例えば、歯を人、顎をベンチに例えた時、5人乗りのベンチに大きな5人が座ると、前後に体をずらす、肩を斜めにしないと全員が座れないなどが起こります。その状態が歯と顎の関係でも起こっているため、歯並びがデコボコになってしまっています。
b.放置しておくと?
- 歯ブラシが行き届かない場所が出来て、虫歯や歯肉炎、将来的に歯周病になりやすくなる
- 咀嚼能力が低くなる
- 見た目が悪くなる
- 歯の交換期だと、大人の歯が生えにくくなる、横から出てくる、埋まってしまうなどが起きる
c.よく行う治療と装置
成長期では、ある程度顎の拡大が期待できるので(人とベンチの例でいうとベンチを広くする)顎や歯列の拡大を行い、スムーズな歯の交換ができる環境を整える治療がメインになります。
よく使用する装置:
拡大装置、マルチブラケット装置
明らかに歯を並べるスペースが足りない場合、永久歯の矯正治療で抜歯することも視野に入れた治療を行います。
なるべく永久歯を抜かない治療を選択しますが、無理に並べてしまい、
- すぐに戻った
- 並んでいるように見えるけど前方に前歯が突出している
- 無理に歯並びを横に並べて効率よく咀嚼される歯並びではなくなる
といった咬合になる可能性があります。無理に歯列を広げて上記のようなことが起こりうる時、事前にご相談させていただき、抜歯を視野に入れた治療をご提案させていただく事があります。
治療開始時期は混合歯列期の治療の目次より適応時期は?をご参照にしてください。
Ⅳ. 開咬(上と下の前歯が触れておらず、前歯で食べ物がかみきれない状態)
a.原因として考えうることは?
- 骨格が原因で上顎と下顎の前歯が当たらない骨格をしている
- 奥歯や前歯の位置が原因で前歯が当たらない
b.放置しておくと?
- 前歯で食べ物を咬み切りにくい
- 発音に影響が出ることがある
- 前歯の隙間に舌を入れる癖がつきやすくなり歯並びがさらに悪化する
- 前歯のサポートがないため、奥歯に負担がかかる
- 口が閉じにくくなり、口の中が乾燥し、虫歯、歯肉炎、歯周病のリスクが上がる
c.よく行う治療と装置
上と下の間の前歯の隙間に舌を入れないように癖の指導を行います。
それでも隙間が閉じないとき、ワイヤーを通す装置でなるべく閉じてきます。
よく使う装置:床型矯正装置、マルチブラケット装置
Ⅴ. 正中離開(前歯の歯と歯の間に隙間がある状態)
a.原因として考えうることは?
- 正中過剰歯という余分な歯が埋まっている
- 側切歯(前から2番目の歯)が欠損している、もしくは側切歯が小さい(矮小歯)
- 上唇小帯というヒダが伸びてきている
- まだ成長段階でこれから自然に閉じる
b.放置しておくと?
- タ行やハ行、サ行に発音障害が出ることがある
- 食べ物が詰まりやすい
- 隙間分、他の歯が入るスペースが少なくなりデコボコ(叢生)が生じる
c.よく行う治療と装置
- 過剰歯の場合:余分な過剰歯を抜歯して様子を見ます
- 側切歯が小さい、欠損している:装置により前歯の隙間閉じます
- 上唇小帯というヒダが伸びてきている場合:装置により出来る限り隙間を閉じた後、上唇小帯切除術を行います
- まだ成長段階でこれから自然に閉じる:経過観察した後、もし閉じなければ装置を用いて閉じます
よく使う装置:床型矯正装置、マルチブラケット装置
Ⅵ. 交叉咬合
a.原因として考えうることは?
- 上顎の横幅が狭い
- 骨格的にずれている
b.放置しておくと?
- そのままずれた方向に骨格の成長がすすみ、大人になった時ずれがさらに大きくなる
- 顎の関節に負担がかかる
- 咀嚼の効率が悪くなる
c.よく行う治療と装置
上顎の広さが原因の場合、上顎を広げ、下顎が正しい場所に落ち着くようにします。
骨格が原因の場合、子どもの矯正治療のみの治療では難しいことがあります。なるべく改善し、ずれを少なくしていきます。
よく使用する装置
拡大装置、トレーナー型装置など
Ⅶ. 過蓋咬合
a.原因として考えうることは?
- 上の前歯の垂直的位置や上や下の前歯が内側に倒れこんでいるなど前歯が原因
- 奥歯がすり減っている、欠損しているなど奥歯が原因
- 骨格的に上下の前歯が重なりやすい骨格
b.放置しておくと?
- 上の前歯が内側に倒れこみ下顎の前方への動きを制限している時、下顎の成長が阻害される
- 上の前歯に下の前歯が強く当たることにより(下の前歯の突き上げ)、歯並びが安定しない(前歯に隙間が空くことがあります)
- 下の前歯が上顎の内側の歯茎(口蓋)に接していると上顎の歯茎(口蓋)に痛みが出ることがある
c.よく行う治療と装置
奥歯と前歯の垂直的なバランスを整えます。(奥歯を少し出す、前歯を上下的に下げるなど)
よく使用する装置
床型矯正装置、マルチブラケット装置など
Ⅷ. 口腔習癖による咬合異常
a.どのような癖で歯並びが悪くなるか?
指しゃぶり、舌突出癖、異常嚥下癖、咬唇癖、頬杖、口呼吸
→それぞれコラムに詳細掲載予定です。
b.放置しておくと?
指しゃぶり:上下前歯間の空隙、上顎前突、臼歯部交叉咬合
舌突出癖、異常嚥下癖;上下前歯間の空隙、上顎前突
よく使用する装置
トレーナー型装置、床型矯正装置など
Ⅸ. その他、矯正治療が必要な歯並び
乳歯の早い時期の脱落、生まれつき歯の本数が足りない方は放置すると歯並びが崩れやすいので一度ご相談に来ていただければと思います。
子どもの歯の生え変わり時期
前から数えて | 名称 | 生える時期 | 抜ける時期 |
---|---|---|---|
1番目 | 乳中切歯 (A) | 生後 6-8ヶ月 | 6~7歳 |
2番目 | 乳側切歯 (B) | 7-9ヶ月 | 7~8歳 |
3番目 | 乳犬歯 (C) | 16-20ヶ月 | 9~12歳 |
4番目 | 第1乳臼歯 (D) | 12-16ヶ月 | 9~11歳 |
5番目 | 第1乳臼歯 (E) | 20-30ヶ月 | 10~12歳 |
大人の歯の生える時期
前から数えて | 名称 | 上顎 | 下顎 |
---|---|---|---|
1番目 | 中切歯 (1) | 7-8歳 | 6~7歳 |
2番目 | 側切歯 (2) | 8-9歳 | 7~8歳 |
3番目 | 犬歯 (3) | 10-12歳 | 9~10歳 |
4番目 | 第1小臼歯 (4) | 10-11歳 | 10~12歳 |
5番目 | 第2小臼歯 (5) | 10-12歳 | 11~12歳 |
6番目 | 第1大臼歯 (6) | 6-7歳 | 5~7歳 |
7番目 | 第2大臼歯 (7) | 12-13歳 | 11~13歳 |
8番目 | 第3大臼歯 (8) 親知らずのこと |
17-18歳 | 17~18歳 |
4.よくある質問
Q1.子どものうちに矯正治療を行えば大人の矯正治療は必要ないですか?
→私自身も患者さんには極力子どもの矯正治療で矯正治療を終えたいと思い治療しておりますが、個人の持っている歯の大きさや歯の本数、骨格のバランスによっては大人の矯正治療を勧めさせていただく事もあります。子どもの矯正治療終了時に、資料取りをさせて頂き現状と必要性をお話させて頂きますので、その内容をよく聞いたうえで必要性を感じられた方のみ大人の矯正治療に進んでいただきます。
Q2.子どもの矯正治療の開始時期はいつですか?
→基本的には奥歯と前歯が生え変わった時に一度ご相談に来ていただくのが良いと思っております。ただし、骨格によってもベストな介入時期は異なるので以下の表も一度ご参考にしてください。下の前歯が上の前歯よりでている下顎前突の方は、前歯が上と下で前後が逆のままですと、上顎の成長阻害を起こす可能性があるので少し早めに治療を行うことがあります。叢生、上顎前突(歯並びのガタガタや出っ歯さんを主訴とされている方)は前歯が大人の歯が生え変わってから行うことが多いです。
Q3.お口の中にずっと装置が入っていて大丈夫ですか?
→ずっとお口の中に入っている固定式の装置が難しいお子様は取り外し式の装置での治療も可能です。個人の性格なども考量してそれぞれに合った装置をご提案させて頂きます。
Q4.痛みはありますか?
→歯が動く際に歯が動く独特の違和感や痛み(鈍痛)が力を加えて数日は起こることがあります。痛みは個人差があり違和感で終わる方もいますが、そうでない方もいらっしゃいます。どうしても気になる方は痛み止めを数日飲んで頂いても構いません。
Q5.受験生ですが勉強に集中できないくらい違和感がありますか?
→装置装着初期は気になる可能性があるので、受験間近に開始するのはお勧めしないです。慣れてくれば気にならないと思うので少し時間にゆとりを持って開始していただきたいと思います。
Q6.制限される運動や部活はありますか?
→特にありません。吹奏楽の楽器によっては慣れるまで演奏しづらいことはあります。
Q7.制限されるお食事はありますか?
→取り外し式の時は制限がないので好きなものを食べてください。ずっとお口に入っている固定式の装置になった際は、くっつきやすく粘着性のあるハイチュウ、キャラメルなどは装置が取れてしまう可能性があるのでお控えください。
Q8.装置が新しくなると言われたのですが、追加費用はかかりますか?
→初期費用に全ての装置の費用が含まれているので追加費用はありません。初期費用以外では再診料のみになります。あまりにも頻繁に装置を紛失、破損してしまうような、装置を大事にして下さらない方に、まれに追加費用がかかることがあります。
Q9.保険で矯正治療が出来ると聞いたのですが?
→当院では以下の①、②の歯科矯正治療の場合のみ、保険治療の適用とさせて頂いております。
- 「厚生労働大臣が定める疾患」に起因した咬合異常に対する矯正歯科治療
- 前歯3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)に対する矯正歯科治療
以下に、厚生労働大臣が定める疾患を列挙致します。
唇顎口蓋裂、6歯以上の先天性部分無歯症、成長ホルモン分泌不全性低身長症、ゴールデンハー症候群(鰓弓異常症を含む。)、鎖骨頭蓋骨異形成、トリーチャ・コリンズ症候群、ピエール・ロバン症候群、ダウン症候群、ラッセル・シルバー症候群、ターナー症候群、ベックウィズ・ウイーデマン症候群、顔面半側萎縮症、先天性ミオパチー、筋ジストロフィー、脊髄性筋委縮症、顔面半側肥大症、エリス・ヴァンクレベルド症候群、軟骨形成不全症、外胚葉異形成症、神経線維腫症、基底細胞母斑症候群、ヌーナン症候群、マルファン症候群、プラダー・ウィリー症候群、顔面裂(横顔裂、斜顔裂及び正中顔裂を含む。)、大理石骨病、色素失調症、口腔・顔面・指趾症候群、メビウス症候群、歌舞伎症候群、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群、ウイリアムズ症候群、ビンダー症候群、スティックラー症候群、小舌症、頭蓋骨癒合症(クルーゾン症候群及び尖頭合指症を含む。)、骨形成不全症、フリーマン・シェルドン症候群、ルビンスタイン・ティビ症候群、染色体欠失症候群、ラーセン症候群、濃化異骨症、CHARGE症候群、マーシャル症候群、ポリエックス症候群(XXX症候群、XXXX症候群及びXXXXX症候群を含む。)、リング18症候群、リンパ管腫、全前脳胞症、クラインフェルター症候群、偽性低アルドステロン症
ソトス症候群、グリコサミノグリカン代謝障害(ムコ多糖症)、線維性骨異形成症、スタージ・ウェーバ症候群、ケルビズム、偽性副甲状腺機能低下症、Ekman-Westborg-Julin症、候群、常染色体重複症候群、その他顎・口腔の先天異常
「その他顎・口腔の先天異常」とは、顎・口腔の奇形、変形を伴う先天性疾患であり、当該疾患に起因する咬合異常について、歯科矯正の必要性が認められる場合に、その都度当局に内議の上、歯科矯正の対象とすることができるとされています。
成人の外科手術を伴う矯正治療は今後取り入れる予定ですが、現在治療を行っていません。初診や診断時に必要と判断させて頂いた場合、専門の機関をご紹介させて頂きます。