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妊娠中、授乳中の方の矯正治療について(麻酔、投薬、X線など)

[2022.08.26]

妊娠されている方や授乳中の方にとって、お子様への影響が一番気になるところだとは思います。

今回は妊婦さんや授乳中の方の矯正治療で注意していただきたいことについてまとめました。

通院中の方もそうでない方も一度確認していただきたい内容になっていますので気になるところを選んで読んでいただければ幸いです。

 

目次

  1. 矯正治療中に妊婦さんや授乳中の方に気をつけていただくこと
  2. 矯正治療中におこりうる、妊娠中や授乳中のX線撮影は問題ない?
  3. 矯正治療中におこりうる、妊娠中や授乳中の麻酔は?
  4. 矯正治療中におこりうる、妊娠中や授乳中の投薬について
  5. まとめ

 

 

 

 

1.矯正治療中に妊婦さんや授乳中の方に気をつけていただくこと

 

結論から言いますと、妊娠中でも矯正治療は可能です。

可能な処置を〇、注意が必要な処置を△、しない方がよい処置を×とさせていただきました。詳しく知りたい箇所に関して下にスクロールしてお読みください。

 

治療の種類

妊娠初期

妊娠中期

妊娠後期

授乳中
(生後0~3)

授乳中
(生後4~)

麻酔

×

投薬

×

X線

抜歯など観血処置

×

×

×

 

 

矯正治療中に気を付けていただきたいこととして大きく分けて下記3つになるかと思います。

 

  • X線撮影の時期

  • 抜歯や矯正用アンカースクリューなど観血的処置(外科的な処置)が必要な処置で麻酔や術後の投薬を行う

  • ワイヤーなどお口に装置が入り、歯ブラシがしにくくなること

 

 

X線と投薬、麻酔については後程、詳しく解説させていただきます。

妊娠中のお口の中の環境ですが、妊娠中は口腔内環境が変化しやすいといわれており、つわりやホルモンバランスの関係で虫歯や歯周病のリスクが上がります。

マウスピース矯正装置の方が歯ブラシ自体は行いやすいですが、それでも丁寧な歯ブラシをしていただく事は必要になってきます。

 

加えて歯が動く時の痛みも出てくるので、一般的に一番辛いとされている妊娠中の8~9週頃に装置を初めてつけたり、矯正の力で強い力がかかるようなことは避けるようにしています。

また、治療上長時間仰向けになっていただく可能性もあるので妊娠後期の方は少し辛いこともあるかもしれません(可能な限り座位に近い形では治療させていただきます)。

 

 

 

2.矯正治療中におこりうる、妊娠中のX線撮影は問題ない?

 

妊娠初期にX線撮影されることになった場合、胎児への被ばく線量がどれくらいかというと一般的に以下の量だといわれています。

頭部 0.01mGy ・腹部 1.4mGy ・胸部 0.01mGy ・腰部 1.7mGy・骨盤 1.1mGy 

(mSv:ミリシーベルト:人体に影響する線量単位)

矯正歯科でのX線撮影は「パノラマX線撮影」と「デンタルX線写真」、「セファロ撮影」が主流です。

「パノラマX線撮影」:お口の全体像を見るための撮影方法

「デンタルX線写真」:は数か所を詳しく撮影する方法

「セファロ撮影」:矯正で用いる横顔や正面の骨格のX線撮影方法

 

被ばく量は「パノラマ」が0.001~0.002mSv「デンタル」が0.003mSvです。さらにデジタルのX線撮影装置を用いるとこの10分の1になります。なので、基本的に歯科矯正に関してのX線撮影は妊娠初期でも問題ないです。

 

妊娠4~16週以内でも国際放射線防護委員会(ICRP)が定めた基準によると「100mGy未満の胎児被ばくで妊娠中絶を選択してはならない」となっており、言い換えると100mGy未満の胎児への影響はないとされています。

 

これを見るとほぼほぼ妊娠前全週にわたって、歯科のX線撮影は問題ないとされていますが、気になる方は安定期(妊娠中期あるいは後期)に歯科でのX線撮影を行うことをお勧めします。

(矯正治療でいうと、初診相談や精密検査、治療中の経過確認のためのX線撮影

 

また、CTに関しては、歯科で用いる頭部CTは0.005mGy以下となっているので、ここもまた影響することはほとんどないとされていますが、特別な理由がない限りは避けるべきだと考えています。

 

 

 

 

3.矯正治療中におこりうる、妊娠中や授乳中の麻酔は?

 

妊娠中にこの局所麻酔を投与してもお腹の赤ちゃんへの危険性はほとんどないことが報告されています。疼痛によるストレスが胎児に影響が出ることを考えると、安定期(16週~)であれば局所麻酔は使用した方がよいでしょう。

 

授乳中の局所麻酔は、3ヶ月位までの乳児の場合、乳児の代謝機能が未成熟なため、控えたほうが良いかと思います。

薬剤を使用後、約2時間をピークにわずかに母乳へ移行しますが、5、6時間後には半分以下、24時間後には 全て代謝されます。お子様が3ヶ月を過ぎると代謝機能もしっかりしてくるため、麻酔の影響はほとんど心配 ないと思われます。

 

 

 

 

4.矯正治療中におこりうる、妊娠中の投薬について

 

矯正治療で用いる可能性がある薬剤が、抜歯後や矯正用アンカースクリュー埴立後に処方される解熱鎮痛剤抗生物質(抗菌薬)です。

 

 現在、妊娠中最も安全に使用できるとされている解熱鎮痛剤が「アセトアミノフェン」です。 欧米でも妊婦さんの半数以上に使用経験があるとされています。しかし最近、まだ最終的に確認されていないもののお腹の赤ちゃんに対する影響(言語発達障害、注意欠如他動症)が報告され始めていますので、妊娠初期に長期間連用することはなるべく避け、必要最低限の使用にとどめるようお勧めしています。

 


 なお、ロキソニンなどに代表されるNSAIDsは流産を引き起こす可能性が報告されていたり、胎児動脈管早期閉鎖との関連性によって妊娠後期(28週以降)は禁忌とされています。

抗菌薬も抜歯後の感染防止はもちろんのこと、矯正用アンカースクリュー埴立後も、抗菌薬を投与したほうがその後脱落しにいという報告があります。

歯科でよく用いられる抗菌薬としてペニシリン系やセフェム系は胎児に大きな影響はないとされていますが必要以上には飲まれない方が良いと思います。

 

また、授乳中でも妊娠中と同じ、解熱鎮痛薬はアセトアミノフェンやイブプロフェンが安全性が高いとされています。イブプロフェンは、抗炎症作用がしっかりとしているので痛みや腫れを抑える効果が強く、母乳にもわずかしか出ないので使いやすいです。アセトアミノフェンも安全性が高いですが、効果がマイルドです。

その他の解熱鎮痛剤として、アスピリン(バファリン)やメフェナム酸(ポンタール)やロキソプロフェン(ロキソニン)なども問題はないといわれています。鎮痛作用が一番強いジクロフェナク(ボルタレン)に関しては、ほとんど母乳に出ていかないので問題ないとは思われますが、あまり積極的に投薬しない方が良いと考えています。

お薬と授乳のタイミングも大事で、お薬を飲んでから3~4時間あけると、影響がかなり減ります。お薬は授乳直後に飲むようにしましょう。

 

また、抗生物質(抗菌薬)もペニシリン系やセフェム系ならば安全性が高いとされ、これらのお薬は赤ちゃんの治療でも必要に応じて使用されます。

 

 

 

 

5.まとめ

 妊娠中や授乳中の矯正治療は基本的には可能な治療が多いですが、現在問題ないとされていることであったとしても、少しでもリスクは避けた方が良いと思うので、治療開始は妊娠前か生後半年以降がベストだと思っています。

(初診相談や精密検査は妊娠安定期であれば良いと思います)

 

 さらに、抜歯や矯正用アンカースクリューを用いる観血処置(外科的な処置)も妊娠前か妊娠安定期、授乳中であれば生後4か月以降がいいかと思います。

 

 もうひとつ絶対に忘れて頂きたくない事としては、お口の中の環境が妊娠中は変化しており歯周病や虫歯になりやすいという事です。妊娠中に矯正治療する際は、しっかりお口の中をケアを行うことだけは約束してください。

 

 今日のコラムがお母さん、将来のお母さん、お母さんを支える旦那さんやご家族の方のお役に少しでも立てたなら嬉しく思います。

 

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