お口周りの筋トレ(MFT)がもたらす歯並びや口腔機能、表情筋の引き締めについて
歯並びが歯並びの外側の筋肉である頬っぺたや唇と、内側の筋肉である舌との筋肉のバランスが取れたところに並んでいくというお話は以前のコラムで述べさせていただきました。ご興味のある方は下記クリックお願いします。
では、その筋力のバランスが崩れてしまった方はどのように改善したほうが良いのでしょうか。
その答えがMFTという、いわゆる歯並びや表情などに関与する筋肉の筋トレです。
どのようなメリットがあり、どのような方がすべきか、また、どのような装置や方法があるのか簡単にですがお話ししたいと思います。
目次
1.MFTとは
2.歯科矯正でMFTを行うメリットは?
3.そのような方がすべきであるのか
4.MFTのトレーニングや補助器具について
1.MFTとは
MFT(Myofunctional Therapy)とは筋機能療法のことで、口の周りの筋肉などの異常な動きや筋力自体の力を改善することによって、歯並びや表情などの改善を促す治療のことです。
2.歯科矯正でMFTを行うメリットは?
- 歯並びを悪くしている原因を改善出来る
口周りの筋肉が原因で歯並びが悪くなっている方は、歯並びだけを治したとしても、その後結局筋肉の力で元に戻るなどで一生安定するのが難しいことが多いです。また、治療期間中も筋肉の力が邪魔をして歯が動きにくいことがあります。そのようなことを防ぐため、お口の周りの筋肉に問題がある方の矯正治療は、MFTを行いながら進めたほうが良いと考えています。
- 正しい機能を獲得するため
MFTは舌や口の周りの筋肉、呼吸などの正しい機能を改善する治療法です。特に、食べ物を飲み込む嚥下と、口呼吸ではなくしっかり鼻呼吸出来るようにすることは、全身の健康状態を良好に保つのに重要であると考えています。歯列矯正では歯並びは綺麗にできますが、機能自体が全員自然と改善するといったわけではありません。MFTを行うことで正しい嚥下と呼吸を行えるようトレーニングします。
- お顔の引き締め
あまり使われていない筋肉は張りがなくだれてしまいます。特に今まで、前歯の突出が原因でお口が閉じにくかった方は前歯を後方に下げた際、口元がだれてほうれい線が出やすいです。それをなるべく防ぐため、表情筋を始め口腔周囲の筋肉を鍛えることでお顔の引き締めにもつながります。
3.どのような方がすべきか
・異常嚥下癖(いじょうえんげへき)など飲食時の飲み込み方に問題がある方
異常嚥下癖とは食べ物などを飲み込む時、口の周りの筋肉が不必要な場所、力が働いている状況です。この癖によって上顎の歯並びがV字のようになったりして、上顎前突やその他の不正咬合を招きます。
・口呼吸(こうこきゅう)
呼吸は通常、鼻呼吸で行われます。スポーツをしている時など多くの酸素が必要な時に口呼吸を行います。口呼吸の方は平常時でも口で呼吸を行い、いつも口がぽかんと開いている状態になります。鼻疾患をお持ちで、全く鼻で呼吸できない方は耳鼻咽喉科と並行して通院していただきますが、少しでも鼻呼吸出来る方は鼻で呼吸する筋肉を鍛え、自然に鼻呼吸出来るように促します。
・指しゃぶり
指しゃぶりについては以前のコラムをご参照ください。
・舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)や低位舌(ていいぜつ)など舌の位置の不正
舌突出癖は舌が上下の前歯にの間に入り込む癖で、前歯がかみ合わない(開咬という状態)歯並びになってしまいます。また、低位舌とは舌が低い位置にあり下の前歯を押してしまうことによって受け口になりやすくなります。舌は通常上顎に位置していて、舌の力で上顎を広げます。MFTで正しい舌の位置を覚えることによってかみ合わせの不正の原因を防ぎます。
・舌の裏側のヒダ(小帯)が伸びない方(舌小帯短縮症)
舌小帯とは舌の裏側にある筋のことで、舌小帯が上顎に付けられないくらい短いことを舌小帯短縮症と言います。MFTを行うことによって舌小帯を伸ばし、正常な動きができるようにします。MFTで改善しない場合は舌小帯を切除する場合があります。
・下唇を噛む癖がある方(咬下唇癖)
下の唇を噛む癖があると下の前歯が内側に倒れたり、下の前歯が凸凹になったり、上の前歯が出っ歯になることがあります。
4.主なMFTのトレーニング
・スポットポジション(正しい舌の位置を覚える)
スポットポジションとは舌の先をいつも付けておく位置のことです。鼻で呼吸している時やものを飲み込む時などスポットポジションに舌先があるようにします。
・スラープスワロー(正しい飲み込み方を覚える)
舌を上顎に吸い上げストローを噛みながら、口の横からスプレーで水を入れて吸い込んで飲みます。舌先はスポットポジションを意識し、奥歯は噛んだ状態で水を飲み込みます。
・バイトホップ(噛む力と舌を持ち上げる力を強くする)
舌全体を上顎に吸い上げて奥歯を噛みしめたあと、口を大きく開けて「ポン」と音を出します。舌の先はスポットポジションに付け、舌小帯をできるだけ伸ばすようにします。
5.MFTと併用する矯正装置やトレーニング器具
・プレオルソ
周囲の筋肉を整え、自然な呼吸、舌の位置を覚えていただくための装置です。比較的新しい装置で、元々の矯正装置に似た装置としてフレンケル装置があります。どちらも異常な口腔周囲の癖や動きを整える装置ですが、効果と様々な咬合の方に適応しやすいのでプレオルソを使って治療することが多いです。ちなみにプレ=前、オルソ=矯正、という意味なので矯正する前の方でも周囲の筋肉をしっかり鍛えましょうという装置だと思っています。トレーニング目的で治療の途中で用いることもあります。
・ポカンXやりっぷるくんなど様々な補助器具
6.最後に
MFTは効果が出るのに時間がかかりますし、患者さんの根気も必要になりますが、矯正治療を始め、歯科の大きな目標になる口腔機能の獲得(食事などの摂食嚥下、呼吸、発音など)という意味ではすごく重要でもっと認知されるべきだと思っています。
ただ、歯並びもそうですが個人によって必要な治療の判別や適切な指導という意味でとても難しい分野であります。矯正をしようかなと思う初めのきっかけは歯並びであることが多いと思いますが、矯正を機に口から始まる全身の健康状態にも気を遣うきっかけになって頂ければと思います。